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私が何年か前に診た患者さんなめですが、お嬢さんがカリフォルニアに住んでいて、私の予後の判断が正確ではなく三度もカリフォルニアからイギリスに来てもらわなければならなかったというケースがありました。ただ彼女は非常に性格が優しくて寛大でありましたので、私は助かりましたけれども。臨床的な患者さんの病状の悪化をうまくピックアップすることができるというのが私たちにとって非常に重要なポイントとなると思います。
昨日の私の話にも含めましたが、臨床上認められる病状悪化の兆候にはさまざまなものがあります。こういったことが起こると悪化が考えられるという方向を指し示すものであり、これが起きたからといって患者さんの死が必ず差し迫っているというわけではありません。しかしこのような兆候が出てきた場合には、患者さんの病状を慎重に見守る必要が出てきたということになります。
昨日も言いましたが、固形癌の患者さんの場合には感染が一番の死因となります。それから頭蓋内圧が上がる、それから新たな病的骨折が生ずる、また閉塞性の尿路疾患でこれは腫瘍によって特に骨盤のあたりの尿路が圧迫されて生じます。それから高カルシウム血症、脊髄の圧迫です。
けれどもそれによって直接死に至る場合もあれば至らない場合もありますが、気をつけて注意を払わなければならない症状です。あとは皆さまよくご存知のものばかりだと思いますのであらためて説明はいたしません。
西立野 消化管の閉塞、出血、骨髄の不全、胸水、心嚢水、腹水、たとえば直腸と膣とか膣と膀胱とかにいろいろな瘻孔ができるということもありますね。
Andrew これら個々の症状がそれ自体で予後を悪くするとかあるいは短くするものではありませんけれども、一つの指標としてそういう方向にいきうるということを示すものです。
このOHPは昨日Wemdyがお見せして説明したものですけれども・ドクターあるいはナースとしてこういったものを見ていくことによって患者さんの余命がもう2,3日であろうということを判断する材料にしていくものです。
最後の24時間の管理は事前に予期できるものであり、また事前に計画を立てておくこともできるものです。臨床的な病状の悪化のサインに常に注意を払って、きちんとした判断ができるようにします。それからまた悪性の高カルシウム血については、たとえばラジカルにそしてアグレッシブにビスフォスフォネートなどを使って治療をすべきかどうかという判断もし、また患者さんの家族、もし可能であれば患者さん自身と相談をした上で、そういう状態にあってもアグレッシブな治療は行わないで緩和ケアのみにし、それによって患者さんが死に至ってもやむをえないという決断もありえます。
Wendyが投薬の方法などについても話をしましたけれども、いままで集まったいろいろな情報とかデータを総合して重要・不可欠な薬についてはどういう形での投薬が望ましいのかということをレビューする。そしてできるだけ予後を正しく判断することにより、社会的・心理的な側面の調整もよりうまくできるようになると思います。患者の証言能力の問題があります。この証言能力というのは患者さんが遺言とか遺書を残せるような能力があるかということを意味しています。イギリスでは遺書を残さずに患者が亡くなった場合には、患者の家族は不利な状態におかれることになります。また多くの人たちが遺書というのは裕福な人たちだけの問題で、自分たちには関係ないと思っています。しかしながらそうではないのです、日本でもおそらく同じなのではないかと思いますが、過書が残っていませんと税金の額も増えてしまうということもよくあります。
プリンセスアリスホスピスでは、患者さんの死が非常に差し迫っていて、そしてその患者さんがまだ通書あるいは遺言を残していない場合には、ターミナルケアのエマージェンシーとして弁議士に来てもらってその立ち会いのもとにその目のうちに遺言が残せるようにする、次の日ではなくその日のうちにということです。ただどの患者さんも必ずしも残せる状態にはないかもしれない、混乱をしてしまったり、うまくまとめられなかったりということもありますが、そういう場合には残念ながら遺書を残すタイミングを逃してしまったということになるわけです。患者さんおよびその家族の方々を助けていくという上で予後を的確に判断していくということが非常に重要であり、それからまた患者およびその家族の役に立つといういくつかの例のお話をしました。

 

 

 

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